KYS 推薦図書・映画の部屋 97/03 /12 13 :35

099 KGH10661 大橋真人 読書の小径 その41 「僕アホやない人間だ」



 細君の故郷が滋賀県甲賀郡水口町であることことから、正月には多賀大社に参詣することにしています。結婚してから続いているから、今年で18回目になりました。そこで、「止揚学園」の人々を見かけなくなってからもう何年かになります。参詣した折には、必ず募金させていただいていました。
 私が、福井達雨氏の名前と「止揚学園」の存在を知ったのは9年前のことです。愛知県豊田市に住む友人が、「福井達雨という素晴らしい人がいるよ」と教えてくれたことがありました。彼の説明によると、福井先生は、30歳の時に、重い知恵おくれの子供の施設「止揚学園」を多くの人々の協力を得て設立され、障害児差別に対する抵抗運動、教育権運動を起こし、日本各地は言うに及ばず、外国まで講演活動をしてみえるとのことでした。
 先生の著作には、「僕アホやない人間だ」、「僕たち太陽があたらへん」、「生命をかつぐって重いなあ」(柏樹社刊)等多数があります。
 ある時、突然見知らぬ人が13歳くらいの女の子を連れて止揚学園に来られたことがありました。その人は、明後日どうしても飛行機でニューヨークへ行かなければならないし、奥さんは病気で入院中で、この子の世話をしてくれる施設を探し回り行く先々で断られ、藁にもすがるおもいだったとのことでした。福井達雨先生は事情を聴き、「今日入園させましょう」ということになりました。
こうした子の特徴として、排尿排便の自立ができていないことが挙げられ、この子も例外ではありませんでした。
毎朝4時にウンコをすることが分かったものの、どう指導したらいいか保母さんが集まり協議した結果、次の日の朝から4時前に起こして指導が始まった。しかし、4カ月を経過するうちにいろな方法が試みられたがうまくできず、「やはりこんどの方法も駄目なので、もうあきらめようかと思います。精も根もつきはててしまいました」と主任保母さんから報告を受けた時、福井先生は次のように言われました。
「人間である以上、可能性のない子供なんてあるものか。現在は、頭のよい子やすぐれたものをもっている子供だけが可能性があると思われ、一生懸命教育されている。頭の悪い子は駄目だと言われて放置されてしまっている。しかし、教育というものはなあ、人間を軽視しないことだし、駄目な子にこそなお真剣に人格と人格とでぶつかっていくことやで。・・・今、ここでへこたれるとは危険やと思うで。
出来ることなら、もう2、3カ月がんばってみたらどうや」(「僕アホやない人間だ」P5152
そして、結局、保母さんたちは、もう一度その子のおしりとニラメッコをすることになりました。それから6カ月たったある朝の4時過ぎ、保母の田代先生が、福井先生の家の戸をたたいて、「先生大変です。大変です」と言ったそうです。福井先生は、事故が起きたのかと、ビックリして戸口にとびだすと、田代先生が「**ちゃんが、便所でウンコをしたんのや、大変だ」と、眼をうるませて言い続けたとのこと。「わたし、**ちゃんのオシリをただ祈る思いでにらめつけていたんや。ちょうど30分ほどした時、**ちゃんのオシリから香ばしいウンコがポツンと出てきた時、ただ感激でいっぱいやった。これほどウンコが美しいものだとは今まで思ったことがなかったし、ウンコのにおいが香ばしいものだと思ったことがなかったわ。宝物を神様から授かったような気持ちやった。自分の仕事が本当に素晴らしいとつくづく思ったわ」(同著P53
 今まで人間らしい行動をなにひとつしなかった**ちゃんが生まれて初めて人間らしい行動をしたことの意義は大きかった。排尿排便の自立は、子ども達の人間回復の始まりなのだから。子どもの生命と対決することは、はげしく、きびしく、あたたかく、うつくしく、たのしいものだと止揚学園の保母さんたちは考えてみえます。
何かとっても大事なことに気付かせていただいたような気持ちがしています。
教育の本来の姿のありようも・・・。

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