USHIMOMO  推薦図書の会議室 95/11/12 18:50 

00061/00061 KGH10661 大橋真人 読書の小径 その15 「微笑みを生きる」



 今、私の机の上(仕事をする事務所の)には2冊の本が私をいつもみつめていてくれています。今年めぐり逢った数々の素晴らしい本の中で、今の時点で言うなら、これらが一番、二番かなと、思っています。そのうちの1冊を紹介したいと思います。ティク・ナット・ハン著「微笑みを生きる」(春秋社)がその本です。
 私が、その本を書店でみつけたのが、5月21日でした。訳者のあとがきの中に他の著作の紹介があったので、それもその時、注文しました。今春4月末から関西と関東で法話ややすらぎと気づきを体験するマインドフル・リトリートが開催されるとありましたので、機会があれば出かけていくつもりでした。後で知ったことですが、残念ながら、5月14日鎌倉材木座の光明寺でおこなわれたのが今回の日本滞在中の最後の催しのようでした。(4月29日の大阪吹田市での法話、リトリート体験記in伊勢原の様子については、雑誌「FILIVol.27参照) ティク・ナット・ハンという名前を知る人は少ないかもしれません。しかし、欧米では、ダライ・ラマと並び称せられる仏教指導者として尊敬されているといいいます。1973年のパリ平和協定のときには、ティク・ナット・ハンがヴェトナム仏教代表団の代表をつとめたそうです。

 「ヴェトナム戦争のさなか、僧院のなかでの伝統的な修行から街に出て人々を助ける活動に従事することを決意し、行動しながら修行したという。北の共産主義陣営とアメリカにあとおしされた南の愛国主義陣営との激しい武力対立のなかで、北の味方でもなく南の味方でもなく、中立と非暴力の立場で貧しい人々や爆撃で焼けだされた被災者を助けた。両陣営からの疑いを受け、事務所に手榴弾が投げ込まれたり、若い仲間が何者かによって何人も虐殺されるなど、大きな弾圧を受けた。そういう状況下でも、「人が敵なのではない。誤ったものの見方や恐れや嫉妬が敵なのだ」という非対立の精神で、理解と愛の実践を深めながら献身的な活動に従事していた。爆撃で焼けだされた一万人以上の被災者を社会福祉青年学校に受け入れたり、無惨に散らばる強烈な臭いの無数の死体を集めてまわったり、壮絶な活動をつづけた。」(同著P173184「個人のやすらぎと世界の平和はこの一歩一歩から」ウェッブ・オブ・ライフ代表 中野民夫氏の解説参照)

 そんな彼の言うことばの一つひとつが胸に滲みてきます。

「子どもが笑う。大人が笑う。これはとても大切なことです。毎日の暮らしのなかで微笑むことができたら、平和で幸福な気持ちで過ごせたらならば、私たちだけなくみんながその微笑みの恩恵に浴します。・・・微笑みは平和なこころと喜びの生活への決意と自覚の現れです。真の微笑みは気づきから生まれます。」味わい深いことばだと思います。「私達の微笑みは自分自身や周囲の人々を幸せにします。」 そして、いきいきと楽しく暮らしてゆくための呼吸法として、「意識的呼吸法」を紹介しています。「息を吸いながら私はいま息を吸っていることに気づいている。息を吐きながら私はいま息を吐いていることに気づいている。」と心のなかでつぶやきます。ただ、これだけです。簡単ですね。実は、これには深い意味があります。

意識的な呼吸は、こころと体をつなぐ架け橋なのです。

 「息を吸って!ほらあなたは生きている!」このように呼吸をし、微笑むだけで私たちは幸せな気持ちになります。呼吸に気づくことによって完全に自分を回復し、いまここの私に出会えるからです。過去はもはや過ぎ去ったもの、未来は未だ来たらざるものです。いまここにいる自分に戻ることができなかったら、いのちと触れ合うことはできません。いまこのときがすばらしい一瞬(ひととき)なのですね。

ティク・ナット・ハン著には他に「ビーイング・ピース」(壮神社)
           「ティク・ナット・ハンの般若心経」(壮神社)
                 「マインドフルの奇跡」(壮神社)
           「ウオーキング・メディテーション」(渓声社)があります。

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